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「持ち戻し免除の意思表示」に関する法改正
1 はじめに
さて、このブログでも、これまで何回かのテーマに分けて、相続法の改正について取り上げさせていただいてきました。今回は「持ち戻し免除の意思表示」に関する改正についてお話させていただきたいと思います。
今回のテーマのポイントは、婚姻期間が20年以上で夫婦間における居住不動産の遺贈または贈与の場合、相続法改正により、先払いされた遺産の取扱にかかる原則と例外が逆転する点です。
【具体例】
Aさんは婚姻して20年以上になる妻XとAさん名義の自宅で暮らしていました。Aさんは自分の死後に高齢の妻Xが住む場所に困ることがないように、自宅を妻Xに生前贈与しました。Aさんが預貯金1000万円を遺して亡くなり、自宅は1000万円の価値があったとします。Aさんの相続人としては、妻Xの他に、前妻との間の子Yが居ました。
共同相続人の一部に被相続人から遺産の前渡しとなるような贈与や遺贈を受けた特別受益者(今回の妻X)がいる場合、先払いされた遺産を持ち戻して、具体的な相続分を算定する元になる相続財産を決定しなければ、不公平といえます。他方、被相続人と長年生活を共にしてきた配偶者(今回の妻X)の自宅に居住する権利は強い保護に値するともいえます。
現行法と改正法では、「持ち戻し免除の意思表示」に関する改正により、どのような違いが出ることになるのでしょうか。2 現行法の場合
婚姻期間が20年以上で夫婦間における居住不動産の遺贈または贈与の場合であっても、原則、被相続人から相続人への一定の贈与分を持ち戻して、具体的な相続分を算定する元になる相続財産を決定します。例外的に、受益者たる相続人が、被相続人から相続人への一定の贈与分を考慮しない旨の意思表示(持ち戻し免除の意思表示といいます。)をしていたことを立証した場合、先払いされた遺産を持ち戻さず、死亡時に遺されていた財産のみを遺産分割の対象として相続分を算定することになります。
【具体例の場合】
妻Xは、Aさんが明示もしくは黙示に「自宅不動産の生前贈与にかかる特別受益の持ち戻しは免除する」旨の意思表示を行っていたことを立証できなければ、Aさんが亡くなった際に遺っていた預貯金1000万円と、自宅不動産の価値1000万円を合計した上で、妻Xと子Yの取り分を計算することになります。法定相続分に従って分割することになれば、妻Xは自宅不動産のみを取得し、預貯金を取得することはできません。
3 改正法の場合
婚姻期間が20年以上の夫婦において、居住用不動産について遺贈又は贈与があった場合、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました。
【具体例の場合】
子Yは、持ち戻し免除の意思表示がなかったことを立証できなければ、Aさんが亡くなった際に遺っていた預貯金1000万円の分割方法を、妻Xと子Yで協議することになります。法定相続分に従って分割することになれば、妻Xは自宅不動産のほか、預貯金500万円も取得することになります。4 おわりに
改正法では、今回ご紹介した「持ち戻し免除の意思表示」の推定のように、配偶者の居住権がより強く保護される場面が増えました。その他の改正点等によっても、相続問題については、今後、従前とは異なる対策が迫られる事態が想定されます。
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東京自由が丘事務所弁護士 田村 祐希子